2013年11月01日 森歯科医院 院長 森光伸
<概要>
口腔顎顔面に生じる腫瘍には全身に生じる腫瘍とほぼ同じかあるいはそれ以上の種類の良性腫瘍や悪性腫瘍が存在するといわれております。「それ以上の種類」というのは、全身に生じることはなく口腔特有に生じる「歯原性腫瘍」が存在するからです。
歯原性腫瘍は歯が発生する時期に発生母細胞が腫瘍化したもので、非常にまれに悪性腫瘍も存在するものの、99%以上は良性腫瘍といわれております。最も頻度が高いのはエナメル上皮腫で、次いで角化嚢胞性歯原性腫瘍、歯牙腫など存在します。ただ、なかには良性腫瘍と分類されてはいても、細胞活性が高く局所的に再発を繰り返す腫瘍も存在し、数十年前は悪性腫瘍に準じた治療が行われているものもありました。現在では低侵襲治療が主流となっていると思います。
今回は転位した下顎完全骨性水平埋伏智歯の後方に隣接し、下顎角から下顎枝に存在した歯原性腫瘍(病理組織診断は複雑性歯牙腫)を摘出したケースを報告します。
歯牙腫は集合性歯牙腫と複雑性歯牙腫の2種に分類されます。集合性歯牙腫は歯の形態をしたものがたくさん存在するのでX線写真でも簡単に診断できます。複雑性歯牙腫は歯の組織が混在したもので歯の形態は認めず、鑑別診断が必要で、X線写真だけでの診断はやや困難で、病理診断が必要となります。
<術前X線写真>
右側下顎に完全に骨内に埋伏した智歯があり、その遠心(後方)に歯のようにも見えるが、歯よりX線不透過性がやや低く骨レベルの不透過性のある腫瘤様の像を認める。境界がやや不明瞭であるが、一部線状の透過像を認め、被膜らしき像にもみえる。
下顎完全骨性転位水平埋伏智歯の前方にはう歯で歯冠が崩壊し、歯槽骨吸収した歯を2本認める。
<摘出物>
左上;摘出物外面
右上;摘出物割面1
左下;摘出物割面2
右下;摘出物外面と割面
<術直後X線写真>
右側下顎智歯とその前方歯の抜歯
歯原性腫瘍摘出
<術後10か月X線写真>
歯原性腫瘍;複雑性歯牙腫との病理診断
歯牙腫の摘出窩および右側下顎智歯とその前方歯の抜歯窩の骨化は良好
*以下は引用です。
<分類>
A)良性腫瘍
1)純上皮性腫瘍
2)外胚葉性間葉組織の誘導を伴う上皮性腫瘍
・エナメル上皮線維腫
・エナメル上皮線維象牙質腫
・エナメル上皮線維歯牙腫
・歯牙腫
複雑型
集合型
3)間葉性腫瘍
・歯原性線維腫
・歯原性粘液腫、粘液性線維腫
・セメント芽細胞腫
B)悪性腫瘍
1)歯原性癌腫
・転移性エナメル上皮腫
・エナメル上皮癌
・原発性骨内扁平上皮癌
・明細胞性歯原性癌
・幻影細胞性歯原性癌
2)歯原性肉腫
・エナメル上皮線維肉腫
・エナメル上皮線維象牙質肉腫及び線維歯牙肉腫
・歯牙エナメル上皮腫
・象牙質形成性幻影細胞腫
<治療法>
・症状がなければ観察
・症状あれば外科的治療
<症例>