2014年6月30日 森歯科医院 院長 森光伸
<鼻腔直下に角状突起をもつ上顎正中完全埋伏逆性過剰歯の1例>
上顎正中過剰歯は正中離開などの歯列不正の原因になりえる通常存在しない過剰な歯です。抜歯せずに経過観察されるケースもありますが、比較的早期に摘出されることが多いようです。
早期抜歯の欠点は患児の理解が得られないため局所麻酔下での手術が困難で、入院全身麻酔下での手術が必要となる点です。早期手術の利点は埋伏過剰歯を囲む歯槽骨が薄く柔らかく、萌出永久歯の根も未完成で抜歯しやすく、術侵襲が少ないことにあると思われます。
一方、晩期抜歯の利点は患児の理解が得られるため局所麻酔下で通院手術が可能ですが、欠点としては歯根が完成され、骨が厚く硬くなり、抜歯が困難になることです。
本例は過剰歯抜歯の適齢としては比較的遅い12歳学童の過剰歯で、手術手技の諸条件が比較的難しい症例ではありましたが局所麻酔下で日帰り摘出手術をおこないました。
画像所見では歯冠が逆性に位置し、完全骨性埋伏歯で、特記すべき所見として歯冠に角状突起をもち、梨状口部の骨を突抜け鼻腔粘膜に接しておりました。それゆえ、術前診断では通常より難しい抜歯になることが推測されました。いざ、手術を開始すると予想どおり口蓋皮質骨は硬く、S字状に彎曲したアンダーカットの多い歯で脱臼が難しく、歯を原型のまま抜歯することは困難でした。そこで、過剰歯を2分割して抜歯をおこない、約20分ほどで手術を終えることができました。術後は一過性の鼻出血がありましたが、経過は良好で歯科矯正治療を再開しております。
<術前写真> 歯列矯正装置装着中
<術前X線写真>
<術前CT像> 前顎断
<術前CT像> 矢状断
<術前CT像> 水平断
CT所見では完全骨性逆性埋伏歯。
歯冠に角状突起をもち、梨状口部の骨を突抜け鼻腔粘膜に接する。
歯軸はS字上に彎曲し、アンダーカット多し。
<手術当日の術前写真> 歯列矯正装置装着を一時的にはずす
<術中写真1,2> 口蓋粘膜を剥離。 口蓋骨を削除し歯根露出
<術中写真3,4> 歯根の中央部の分割面
<術中写真5,6> 分割断面と歯冠摘出(歯冠の角状突起)
<術中写真7,8> 抜歯窩と粘膜縫合
<2分割して摘出した過剰歯>
上方部;鼻腔側に存在した角をもった切断した歯冠
下方部;口蓋側に存在した切断した歯根
<術前後のX線写真の比較>
術前と手術当日の術後写真;過剰歯は完全に摘出された