2016年7月17日 滋賀県 草津市 森歯科医院 院長 森光伸
2016年7月13日にMonic Clubにて講演した「血栓の基礎知識と抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドラインの報告 – 2015年版&2010年版の概要 – 」の概要を4部にわけて報告いたします。
一般的な抗血栓療法の概要、特に抗凝固療法について
<抗血栓(薬)療法の種類>
1. 抗凝固(薬)療法、 2. 抗血小板(薬)療法、 3. 血栓溶解(薬)療法
<抗血栓(薬)療法の目的と機序>
1. 抗凝固(薬)療法;
・血管が閉塞されないように血栓形成を抑制する薬と療法
・ フィブリン形成を阻止し、赤色血栓を阻害する薬剤
・ 人工弁置換術後、心房細動、深部静脈血栓症、肺梗塞など血流の乱れや鬱滞による血栓症に適応
2. 抗血小板(薬)療法;
・ 血管が閉塞されないように血栓形成を抑制する薬と療法
・ 血小板凝集を阻害し、白色血栓を阻害する薬剤
・ 動脈硬化巣での血栓形成を防止する。狭心症、心筋梗塞、脳梗塞など動脈で起こる血栓症に適応
3. 血栓溶解(薬)療法;すでに形成された血栓を溶解除去する薬と療法
<抗凝固薬の種類>
1
. ビタミンK依存性凝固因子合成阻害薬;・クマリン誘導体・ ワルファリン、アセノクマロール、フェニンジオン・ 凝固因子のうち第II因子 (プロトロンビン)、第VII因子、第IX因子、第X因子合成の補因子 ビタミンKに対する拮抗作用により抗凝固作用をもつ。・ 効果が最大になるまでに投与開始から48ー72時間かかる。・即効性を求めるならばヘパリンの併用が望ましい。・抗凝固効果の判定と出血危険性を判定するため、定期的にPTINR時間を測定する必要がある。
2
. 直接トロンビン阻害薬;・トロンビンの競合阻害作用を持ち,フィブリノゲンのフィブリンへの転換を抑制。・ダビガトラン;経口投与。ワルファリンのような定期的効果判定の必要がない (裏を返せば、効果判定の手段がないともいえる)。・アルガトロバン;経静脈投与
3. 第Xa因子阻害薬;トロンビンの活性化を促進する第Xa因子 (活性化第X因子) を阻害する物質。補因子なしに阻害する直接阻害薬と、補因子としてアンチトロンビンIIIを必要とする間接阻害薬がある。
3-1直接第Xa因子阻害薬;経口投与;・リバーロキサバン・エドキサバン・アピキサバン
3-2間接第Xa因子阻害薬;皮下投与;・フォンダパリヌクス
4. ヘパリンとヘパリン類似物質;・ヘパリン;豚や牛の腸から抽出される。アンチトロンビンIIIの活性作用により抗凝固作用を持つ。血管内投与を行う。
5. 体外で用いられる抗凝固薬;目的1.血漿と血球を分離。2. 液体としての流動性を残す。3. 血液凝固因子を消費させない
・EDTA ; 二価の金属イオン(カルシウムイオンもこれである)をキレートする。
・クエン酸 ; クエン酸三ナトリウムとして用いられ、カルシウムイオンと結合する。
・シュウ酸 ; クエン酸と同様。
・フッ化ナトリウム ; NaF。カルシウムイオンと結合。解糖系を阻害するので血糖測定に用いられる。
・ ACD ; Acid Citrate Dextrose
Solution。クエン酸とデキストロースを含む。輸血用保存血液に添加される。
<他薬との飲み合わせ>
ワルファリンで相互作用を起こす代表的な薬;
・作用増強;抗生物質・解熱鎮痛剤など
・作用減弱;ビタミンKの含まれる薬、(骨粗鬆症治療薬の一部)、抗てんかん薬など
<抗凝固薬の利用法>
・体内投与;血栓塞栓症の治療と予防。カテーテルの閉塞防止。
・体外投与;人工透析装置や人工心肺装置の体外回路の凝固防止。輸血用血液の保存。血液検査。
引用文献)循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン;循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2008年合同研究班報告の2015年10月改新版);合同研究班;日本循環器学会、日本冠疾患学会、日本胸部外科学会、日本血栓止血学会、日本小児循環器学会、日本神経学会、日本心血管インターベンション学会、日本人工臓器学会、日本心臓血管外科学会、日本心臓病学会、日本脳卒中学会、日本脈管学会、日本臨床血液学会