2016年9月30日 滋賀県 草津市 森歯科医院 院長 森光伸
当院は地方の名も無い小さな歯科医院ではありますが、様々な患者様が手術を希望されて来院されます。大きな手術を好まない患者様や多忙のため大病院へ受診できない方が来院し、治療を希望されることも多々あります。そのような時、私は「当院では手に負えないので大病院を御紹介いたします』とお断りするべきか、あるいは「了解いたしました」といって患者様と一緒に治療に参加するかの二者選択では、できる限り後者を選択するよう心がけております。しかし、時には即断できないこともあり、そのような時には師匠の顔が浮かびます。我々のできる限りの努力を積み重ねていきたいと思っております。
以下、御報告するのは約1年の経過をみた比較的稀な症例です。
本例は左側下顎骨の下顎角から智歯部に生じた大きな顎骨嚢胞で、通院局所麻酔下で手術治療し、現在まで約1年経過良好であります。
術前CTでは嚢胞と智歯が下顎管(三叉神経第三枝の下顎神経)を圧迫しており、嚢胞摘出は避け、開窓術を選択いたしました。しかし、智歯だけは抜歯せざるをえず、リスクをおいながら抜歯いたしました。術後、全く神経麻痺は生じませんでした。
その顎骨嚢胞の病理組織学的診断は類皮嚢胞で口腔外科領域は比較的少ない嚢胞であり、しかも、下顎角に生じるのは稀であるといわれております。
治療は一般的には入院全身麻酔下で手術されることが多い疾患で、再発などを考慮して切除範囲を広く設定する手術がおこなわれていた時代もあったようです。しかし、最近では時折遭遇する疾患として口腔外科学会でも例年発表されており、より侵襲の少ない治療法が選択されているように思われます。
当院では埋伏智歯抜歯、嚢胞開窓術と内容物の摘出をおこない、術後に創腔保護目的でオプチュレーターを装着し、創腔の底部から創が順次縮小されるまで調整いたしました。経過は良好です。
<術前;口腔内写真>
<術前;X線写真>
<術中;口腔内>
<術直後;X線写真>
<術後3か月;口腔内写真>
<術後1年;口腔内写真>
<術後1年;X線写真>