2016年12月2日 滋賀県 草津市 森歯科医院 院長 森光伸
第61回日本口腔外科学会総会・学術大会が2016年11月25日(金)26日(土)27日(日)に幕張メッセ 国際会議場で開催され、26日(土)に参加しましたので概要の一部を報告いたします。
2016年の学術大会は日本歯科大学 生命歯学部 口腔外科学講座 教授 又賀 泉先生が大会長として主催されました。その内容は従来からの先端医療から小手術まで広い範囲に及んでおりました。その中から特に印象に残った2題につき報告いたします。
まずは、口腔三学会(日本口腔病理学会、日本歯科放射線学会、日本口腔外科学会)のシンポジウム「MRONJ, BRONJの基本な対応」です。薬剤性顎骨壊死であるMRONJ, BRONJは当初ビスフォスフォネート投与患者で観察された難治性骨髄炎でした。これらを病理学的診断、放射線学的診断、口腔外科的治療などの多面的な観点から討論されました。
A) 日本口腔病理学会からは長崎大学 大学院 医歯薬総合研究科 口腔病理学分野 教授 池田通先生の講演がありました。
『MRONJ, BRONJは病理組織学には骨髄炎の組織像を呈し、特異的な所見に乏しい。慢性顎骨骨髄炎と類似しており判別は困難である。MRONJ, BRONJの病理所見は1) 無腐性骨髄炎ではない。2)骨壊死の傾向が強い訳ではない 。3) 破骨細胞が普通にみられる。4) 破骨細胞の形態異常はみられない。ビスフォスフォネートは骨吸収抑制剤であるため、少なくとも長期的には破骨細胞の減少が認められると想定されたが、病理組織学的には必ずしもそうではなかった。また、抗RANKL抗体製剤(デノスマブ)では破骨細胞誘導が直接抑制されるため、破骨細胞の減少が顕著になると想定されたが採取顎骨ではそうではなかった。あえてMRONJ, BRONJに特徴的な所見をあげるとすれば、破骨細胞様の多角巨細胞の出現や、骨表面から離脱した破骨細胞の出現があげられる。しかし、この所見をもって確定診断とすることはできない。今後の研究による。』とのことであった。
B) 日本歯科放射線学会からは日本大学 松戸歯学部 放射線学講座 教授 金田隆先生の講演がありました。
『MRONJ, BRONJの画像所見は歯性感染による慢性顎骨骨髄炎とほぼ類似の所見を呈するため画像のみで鑑別診断するのは困難である。しかし、他の診断よりも初期の病態を把握することは可能であり、経過観察症例での骨髄の炎症残存の評価を行うにはMRIが有用である。MRIはT1強調画像で低信号を呈する慢性の骨髄信号低下。T2強調画像、脂肪抑制像、拡散強調像にて高信号。また、造影される骨髄の炎症による骨髄信号の異常がみられる。腐骨はT1強調画像、T2強調画像共に塊状の無信号て呈し、周囲軟組織に炎症波及による信号異常をともなうことがある。また、皮質骨の微細な吸収はCTが有用である。』とのことであった。
C) 日本口腔外科学会からは東京歯科大学 口腔顎顔面外科学講座 教授 柴原孝彦先生の講演がありました。
BRONJからはじまりDRONJ, MRONJ, ARONJの経緯と国際的な取り組み、国内の取り組みと発生頻度、医科と歯科の取り組みの相違点などの報告がありました。
二番目に印象に残ったことは下顎埋伏智歯抜歯について、熟練した口腔外科医が口腔外科学会で議論しあっていることです。私が大学を卒業した頃は歯科医師なら誰でも埋伏智歯抜歯をおこなっていました。当時の下顎埋伏智歯は下顎神経と離れた位置に存在し、今ほどリスクは無かったような気がします。しかし、昨今の下顎埋伏智歯は下顎神経と何らかの接点をもつようになり、当時に比べリスクの高い手術となったような気がします。私の個人的な意見ではありますが、下顎埋伏智歯は訓練された口腔外科医が行うほうがよいのではないかと感じております。